医療事故多発の苦い経験を繰り返さないため、2015年10月から医療事故の原因を調査して再発防止を図る制度がスタートしました。
この制度では「予期せぬ死亡事故」が起きた場合、事故の調査を医療機関が院内で行い、院内事故調査報告書に問題があれば、遺族や医療機関は第三者の医療事故調査機関(※)に調査を求めることができることになっています。
しかしながら予期せぬ医療事故かどうかの判断は医療機関の管理者(病院の院長など)にまかされています。そのため遺族が調査を求めても、病院長が「予期せぬ死亡」と認めなければ事故調査は行われません。5年間の医療事故の報告件数は、毎年380件程度で低調な推移となっています。(当初の見込みでは年1300〜2000件)。また、遺族は直接第三者機関(※)に調査を求めることはできません。
※日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)
(1)死亡事故が起きた際、「予期せぬ死亡事故」だったのかを医療機関側が判断するため「予期した死亡」とみなしてセンターへ報告しない場合、それを第三者が検証できない。
(2)被害者遺族が「医療事故ではないか?」と思っても、第三者として判断してくれるところがない。
(3)医療事故調査・支援センターの調査報告書は公表されていないので再発防止に役立っていない。
(4)死亡事故のみで重度障害事故が対象外になっている。
この制度は医療機関の自主・自律性を信頼して始まりましたが、5年たっても残念ながら医療事故の実態を的確に反映するには程遠い報告件数です。 医療事故調査制度を真摯に育てなければ、医療安全は進まず、医療に対する国民の信頼を回復させることは出来ません。
医療機関管理者からセンターへの届け出が目詰まりのまま改善せず
@2015年10月制度施行(事故を起こした医療機関管理者が届出の判断権限)
Aセンターへ報告件数1847件/5年間(施行前の想定1300〜2000件/年)
B医療過誤原告の会へ予期せぬ死亡相談件数は、5年間で135件(このうちセンターへの届出14件のみ)
【届け出なかったケースから】
(A)腹部大動脈りゅう予防的手術、安全を強調して手術を勧められたが死亡。遺族には死亡のリスクが0.3%あったと事後説明し、届け出ず。
(B)点滴チューブが夜中に外れ、低血糖で死亡。病院は責任認めず、届け出ず。
(C)頭痛で歩いて入院、4日後手術、その日に死亡。届け出ず。
(D)心臓カテーテル手術中に意識不明、2日後に死亡。主治医は謝罪したが、届け出ず。
(E)入院中に拘束、エコノミー症候群で死亡。主治医は「よくあること」と、届け出ず。
(G)入院中、胃瘻から栄養液が漏れ、腹膜炎で死亡。病院調査して謝罪。支援団体の助言は、センターには届け出不要。
(H)看護師の医療ミスで死亡。病院は謝罪したが、後に責任否定。届け出ず。
(J)手術後に点滴を行った直後に死亡。センターに届けると言ったが、後に否認。
次に掲げる5件のセンター調査は・・・
@事故に至るプロセスの解明、データの公表、再発防止策の提言の信頼性が高い。
Aセンター報告書に対する調査委員会の責任が明確化されている。
B公平性・透明性・専門性・独立性について信頼できる。
Cご遺族が再発防止を願い、センター調査報告書を公表します。
(問い合せ先:医療過誤 原告の会)
被害内容 | 院内調査 | センター調査 | |||
---|---|---|---|---|---|
調査報告書 | 資料 | 調査報告書 | 資料 | ||
Aさん | 食道がん初期、 抗がん剤治療で死亡 |
2ページ | 2ページ | 41ページ 調査報告書 |
5ページ |
Bさん | 出産事故で死亡 | 4ページ | 3ページ | 36ページ 調査報告書 |
4ページ |
Cさん | 頚椎手術後に死亡 | 2ページ | 0ページ | 28ページ 調査報告書 公表理由 |
2ページ |
Dさん | 中心静脈カテーテルの事故で死亡 | 13ページ | 0ページ | 40ページ 調査報告書 |
7ページ |
Eさん | ドレナージ手術後に死亡 | 13ページ | 0ページ | 44ページ 調査報告書 |
8ページ |
@予期せぬ医療事故死を、医療機関管理者の多くが真摯にセンターに届け出を行わず、医療事故再発防止制度の目的が活かされないままとなっている。
Aセンター調査報告書が公表されないため、医療事故再発防止に活かせない。
@予期せぬ死亡事故をセンターへ届出促進を検討するために、厚労省が検討会を立ち上げて、改善の動きを起こしてほしい。
Aセンター調査報告書は病院名や患者名を匿名化して、個人の責任追及とならないよう作成されている。全国の医療機関が再発防止に活かせるよう公表してほしい。
2020年10月26日「医療過誤原告の会」会長 宮脇正和
出版:篠原出版新社(2021年)
価格:2,500円+税
2015年10月に施行された「医療事故調査制度」。しかし、予想をはるかに下回る報告しか行われていません。医療事故被害者・遺族、医療従事者双方にとって、医療事故死の原因究明と、再発防止策の作成は、喫緊の課題です。本書では、実際の事例を紹介し、本制度活用のポイントと、今後の課題が詳細に説明・解説されています。医療事故死の再発防止のための全医療従事者にとって、必読書です。
篠原出版新社ウェブサイト